春眠〜脱線

枕という言葉が季語ならば、その季節は必ず春だと思う。

アート紙の冷たい表紙は、春の不透明な重みの澱んだ後頭部にこころよい枕になった。-三島由紀夫「急停車」

三島のように言葉を紡ぎたい。華美で、一文一文が重たい、生クリームのようなテクスト。

文学を学べばよかったのかもしれない。あるいは文法論。仕様のないことを綴っている時、助詞や語順なんかを迷うのは楽しい。決して自身の文筆に自信があるわけではない。ただ、多感で暇のある時期に、美しい言葉を解き明かそうとする時間がもっと長ければ良かった。それに、色々と瑣末なことが気になってちまちまと調べものができるような分野は、得意でなくても性に合ったものと呼べる気がするのだ。

私は文学部生だったが、芸術や大衆文化を扱い論じるような学科に所属した。いや、所属したというのは憚られるほどに、四年間何もしなかった。塾講師のアルバイトでは英語を教えたが、そちらもそこまで力を入れていたわけではない。ただよく眠り、散歩をし、街に出かけた四年間だった。大学生活は私に怠惰の心地よさと恐ろしさを教えた。あの頃手に入れた諦めと堕落の感情は今も手放せていない。

霞と枕とグレーと焦り。大学生活は、私にとって間違いなく人生の春だった。